2024.01.22
歯周病は一度感染したら治らない?
歯科医院のホームページなどで、「歯周病は治らない」「歯周病は一生付き合っていく病気」などと書かれているのを見たことはありませんか? 実際に「歯周病は治らない」と言う歯科医院は多くありますが、それは大きな間違いです。1960年代半ばにはすでに歯周病の治療法は確立されており、「治る病気である」ことが分かっています。にもかかわらず、いまだに「治らない」と言う歯科医院があるのはなぜでしょうか?
何をもって「歯周病が治った」とするのか?
そもそも、何をもって歯周病が「治った」とするのでしょうか? 歯科医院によって考え方が異なるのは、「治る」の捉え方が違うことに原因があるのかもしれません。
■再発のリスクがあれば歯周病は治っていない!?
歯周病は、治療したからといって歯を磨かかないなどの生活をしていれば当然再発してしまう病気です。「再発のリスクがある以上、治っていない」と考えるのであれば、歯周病は治らないと言えるかもしれません。しかし、そんなことを言ったら、あらゆる病気が治らないことになってしまいますよね。また、歯周病は予防法も確立しているので、治療後に正しい予防法を実践すれば健康な口腔内を維持していただけます。
■元どおりにならなければ歯周病は治っていない!?
歯周病が重度まで進行すると、歯周組織(歯茎や顎の骨)が壊されてしまいます。その結果、歯茎が下がって歯が長くなったように見えることもありますし、顎の骨が溶かされてしまっていれば、それが自然と元に戻ることはありません。歯周組織が元どおりにならないことから「歯周病は治らない」とする歯科医院があるとすれば、これは少し乱暴な考え方だと言えます。「治る=元どおりになること」だとするならば、むし歯も治らない病気ということになってしまいますよね。
歯周病によって歯周組織が破壊されてしまっても、様々な治療法で治すことができます。痩せてしまった歯茎の見た目を回復する「歯茎の再生治療」もありますし、溶かされてしまった顎の骨を再生させる「骨移植」「エムドゲイン」「GTR」といった治療法もあります。歯周病は、症状に応じてこれらの治療を組み合わせることで確実に治すことができる病気なのです。
歯周病は必ず治ります!
歯科医院で「この歯周病は治らない」と言われた方もいるかもしれません。また、「この歯周病は治らないから、歯を抜いてインプラントにしましょう」と言われた方もいるかもしれません。
今回のコラムでお伝えしたいのは、「歯周病は必ず治る病気」であるということです。また、安易にインプラント治療を受けるのは避けていただきたいということです。インプラント治療はメリットの多い優れた治療法ですが、歯周病を治さずにインプラント治療を受けても根本的な問題解決にはなりません。逆にインプラントが歯周病に侵されてしまう「インプラント周囲炎」という大きなリスクを抱えることになってしまいます。
冒頭でもお話ししましたが、歯周病が治ることは約半世紀も前に明らかになっています。ですから、歯周病でお悩みの方は決して諦めたりせず、治療に取り組んでいただければと思います。
一点、注意を申し上げるとしたら、治ったときに「もう大丈夫だ」と安心しすぎないでください。上述のとおり、歯周病は再発のリスクが高い病気です。治ったときの理想的な口腔内をキープしていくことが重要であり、そのためには毎日の正しいブラッシングと歯科医院でのメンテナンスが欠かせないのです。
【関連記事】:歯槽膿漏・歯周病とは?
【関連記事】:歯周病の治療方法と流れ(症状や原因についても解説)
【関連記事】:歯周病になったらもう手遅れ?
歯周病を予防するには?
■毎日、正しいブラッシングをすること
歯周病予防の鉄則は、毎日のブラッシングでプラーク(歯垢)を取り除くことです。しかし、毎日丁寧にブラッシングしていても、プラークを取り除けていない方が少なくありません。なぜなら、正しく磨けていないからです。歯周病を予防するには、「正しいブラッシング方法」を身に付けて、できるだけプラークの取り残しを少なくすることが肝心です。
■歯石を取り除くこと
歯周病の直接的な原因はプラーク(歯垢)ですから、プラークが溜まりにくい口腔内環境をキープしていれば歯周病は予防できます。プラークの溜まりにくい口腔内環境をつくるうえで「正しいブラッシング」とともに重要なのが「歯石除去」です。歯石は死んだ細菌の塊なので、それ自体が歯周病の原因になるわけではありませんが、表面がザラザラしているため、口腔内に歯石があるとプラークが溜まりやすくなってしまいます。
プラークを放置していると歯石に変わり、歯石に変わるとブラッシングでは除去できなくなります。つまり、重要なのは「歯石に変わる前」にプラークを除去することです。それでも歯石に変わってしまったら、歯科医院で歯石除去を受ける必要があります。
■歯科医院の定期検診を受けること
正しいブラッシングができている人でも、「歯と歯の間」や「奥歯の裏側」などの汚れを100%取り除くのは困難です。このように、セルフケアでは取り除けない箇所の汚れやプラーク(歯垢)は、歯科医院の定期検診で取り除いてもらう必要があります。定期的に歯科医院でプロケアを受けることで口腔内を隅々まできれいにすることができ、効果的に歯周病を予防できます。
歯周病が改善しない理由
■プラーク・歯石の除去が不十分である
歯周病は、原因であるプラークを除去しなければ治ることはありません。プラークを完全にゼロにすることはできませんが、口腔内のプラークをいかに少なくできるかが治療の成否を分けるポイントになってきます。また、歯石は歯周病の直接的な原因にはなりませんが、表面がザラザラしており、口腔内に歯石があることでその上にプラークが付着しやすくなるため、歯周病治療においては歯石の除去も重要です。
まずは、ご自宅でのブラッシングで毎日しっかりとプラークを取り除くことが重要です。しかし、ご自宅でのブラッシングだけではプラークをすべて除去することはできませんし、歯ブラシで歯石を取ることはできません。歯と歯の間や、歯周ポケット内部に溜まったプラーク・歯石は、歯科医院の専門的な処置で取り除いてもらう必要があります。プラーク・歯石の除去が不十分だと、歯周病はいつまで経っても改善しません。
■生活習慣が整っていない
歯周病を治すうえでは、生活習慣を改善することも重要です。生活習慣のなかでもっとも大切なのがブラッシング習慣です。上述のとおり、口腔内にプラークが残っているほど歯周病が治りにくくなるので、毎日のブラッシングでしっかりプラークを取り除くことが大前提になってきます。
食生活にも注意が必要です。糖分の多いお菓子や飲料を好む人は、プラークが溜まりやすくなります。また、タバコを吸うと歯周病が治りにくくなることが明らかになっているため、喫煙者の方は禁煙が必須です。
■歯並びが良くない
歯並びが良くない人は、歯並びが良い人に比べると歯周病が治りにくい場合があります。というのも、歯並びが良くない人は歯と歯が重なり合っていたり、歯がねじれていたりして、その部分にプラークが溜まりやすくなるからです。
しっかりとブラッシングをしていても、磨きにくい部分(磨けない部分)が多いため、口腔内環境が悪化しがちです。程度によっては、歯周病治療と並行して矯正治療を受けたほうが歯周病の改善が見込めるケースもあります。
■歯科医院を受診していない
口腔内にプラークが溜まると、最初は「歯肉炎」を発症します。歯肉炎の段階であれば、毎日の正しいブラッシングによって治癒させることができます。しかし、歯肉炎の段階で正しいケアができないと、「歯周病」へと発展してしまいます。歯周病になると、もはやブラッシングだけで治癒させることは不可能であり、歯科医院で専門的な処置を受けなければ改善することはできません。
歯茎からの出血や歯茎の腫れなどは「すぐに治る」と考えがちですが、歯肉炎ではなく歯周病になっていたら自然に治ることはありません。症状が1週間程度続いているなら、歯科医院を受診しましょう。
■糖尿病である
糖尿病になると、細菌を飲み込む働きをしてくれる好中球(白血球の一種)の働きが鈍化します。それによって体内の感染防御機能が弱くなってしまうため、歯周病などの感染症にかかりやすくなる(重症化しやすくなる)ことが明らかになっています。
そのため、糖尿病の方は歯周病治療だけをしていても、なかなか歯周病は治りません。歯周病治療と並行して糖尿病治療をおこなうことで、歯周病の治療効果も高まります。
【関連記事】:歯茎が下がる4つの原因と元に戻すための治療法
メンテナンスの重要性
歯周病を予防するには、メンテナンス(定期検診)が欠かせません。「なぜ、メンテナンスが重要なのか?」は、主に以下の3点で説明できます。
■歯周病は「沈黙の病気」だから
歯周病は「サイレント・ディジーズ(沈黙の病気)」と言われます。というのも、歯周病は初期の自覚症状に乏しく、静かに進行していく病気だからです。「口腔内の異変に気付いたときには手遅れだった・・・」というのも、決して大げさな話ではありません。自覚症状に乏しく、自分では気付きにくい病気だからこそ、歯科医院でのメンテナンスが重要になってきます。
■歯周病は再発しやすい病気だから
歯周病は治る病気ですが、一度完治しても再発しやすい傾向にあります。毎日のブラッシングが不十分で口腔内にプラークの取り残しが増えると、再び細菌が活性化して容易に再発を起こしてしまいます。個人差はありますが、日々のブラッシングだけで歯周病の再発を防ぐのは簡単なことではありません。そのため、定期的に歯科医院でメンテナンスを受診する必要があるのです。
■セルフケアだけでプラークを取り除くのは困難だから
歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシ、洗口液など、セルフケアグッズはたくさん販売されています。これらのグッズを活用するのは重要ですが、残念ながら、セルフケアだけでプラークを100%取り除くのは困難です。セルフケアで取り残したプラークを除去するためには、歯科医院でメンテナンスを受けるしかありません。
東京国際クリニック/歯科では、一人ひとりの患者さまに適したメンテナンスプログラムをご用意することで歯周病の再発を防いでいます。当院のメンテナンスの詳細は、以下のページをご覧ください。
治療後の歯周病メンテナンス
よくある質問
-
Q.歯周病を治さないでいると、どうなるのでしょうか?
A.歯周病を放置していると歯を支えている顎の骨がどんどん溶かされていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。また、歯周病菌が血流に乗って全身を巡ることで、様々な全身疾患やの引き金になることが分かっています。たとえば、糖尿病が悪化したり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたりすることがあるので、注意が必要です。その他、誤嚥性肺炎や骨粗鬆症、腎炎や関節炎の原因になるほか、妊婦さんの場合は、早産や低体重児出産のリスクが高くなることも明らかになっています。
-
Q.歯周病治療は、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
A.歯周病治療の基本は、原因であるプラークや歯石を取り除く治療が中心になります。軽度の歯周病であれば、スケーリングやデブライドメントなどの非外科処置でプラーク・歯石を取り除いていきます。歯周病が中度や重度にまで進行している場合は、歯周ポケットの奥深くにまでプラーク・歯石がこびり付いているため、歯茎を切開してプラーク・歯石を除去する外科処置をおこなう場合もあります。歯周病治療の詳細は、以下のページをご覧ください。
> 歯周病の治療方法と流れ(症状や原因についても解説)
-
Q.歯周病によって下がってしまった歯茎(歯肉)を再生することは可能でしょうか?
A.歯周病が進行すると顎の骨が溶かされていき、骨の上に乗っている歯茎もそれに追従するように下がっていきます。溶かされた顎の骨が自然に回復することはないため、下がってしまった歯茎も何もしないで元どおりになることはありません。歯周病によって下がってしまった歯茎を元通りにしたい場合は、「歯茎の再生治療」を受ける必要があります。歯茎の再生治療にはいくつかの方法がありますが、歯茎の下がり具合がひどい場合は、元どおりにできないケースもあります。当院における歯茎の再生治療は、以下のページをご覧ください。
> 歯茎の再生治療 -
Q.他院で重度の歯周病と診断され抜歯をすすめられました。本当に歯を抜かなくてはいけませんか?
A.重度の歯周病の場合でも、必ずしも抜歯しなければいけないわけではなく、歯を残せるケースもあります。一般的な歯科医院の場合、重度の歯周病の患者さまには「抜歯をしてインプラントを入れましょう」という提案をするケースが多くあるようですが、歯周病専門医であれば抜歯を避ける治療法を提案してくれる可能性があります。ご自身の歯を残したいのであれば、一度、歯周病専門医でセカンドオピニオンを受けることをおすすめします。
歯周病の治療方法
歯茎が炎症する原因である歯周病の症状と治療法
歯周病治療と精密保存治療、2つの柱で口腔内の健康を守ります。
リラックスして歯科治療を受けていただくために
監修者情報
公開日:2016年1月26日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
PICK UP
よく読まれているコラム
RECOMMEND