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プラーク(歯垢)とは? バイオフィルムと歯石の違い

プラーク(歯垢)、バイオフィルム、歯石のイメージ
プラーク(歯垢)、バイオフィルム、歯石。

これらはたびたび歯医者さんのホームページなどで見かける言葉だと思います。しかし、なんとなくお口の健康を阻害する存在であることはわかるものの、それぞれがどう違うのかはよくわからない――という方も多いのではないでしょうか。

実際、私たち東京国際クリニック/歯科でもそのようなご質問をいただくことがあり、分かりやすく症状のご説明をするにあたって気を付けている部分でもあります。今回のコラムでは、そんな「プラーク」「バイオフィルム」「歯石」の違いについて少しだけ掘り下げたいと思います。

プラークは微生物の固まり

一般的に「プラーク(歯垢)」と呼ばれるデンタルプラーク(Dental Plaque)は、虫歯菌や歯周病菌をはじめとする微生物の固まりです。黄白色を帯びた粘着性の物質で、わずか1mgに数億から数兆もの細菌が潜んでいます。プラークは組織の約8割が水分で、残り2割が有機質。有機質の大半は細菌とその代謝物です。プラークが増えると、細菌が増殖して虫歯や歯周病、におい(口臭)などを招くことが分かっています。プラークに潜む細菌を顕微鏡で調べてみると、細菌が活発に動いていることが分かると思います(上記は中度歯周病の細菌動画です)。

食後8時間程度で生成されると言われているこのプラーク。食べカスとはまったく別物ですが、細菌は食べカスに含まれる有機質を栄養源にして活発化するので、まったく無関係というわけではありません。食べカスを残さないことは、細菌の活動を抑えるうえでとても重要なのです。ちなみに、ネバネバしているプラークは水や洗口剤でうがいをしたくらいでは落とせませんが、歯磨きなどの物理的処置によって落とすことができます。

プラーク(歯垢)は付着する場所によって「歯肉縁上プラーク」と「歯肉縁下プラーク」に分けられます。

■歯肉縁上プラーク

歯肉縁上(しにくえんじょう)プラークとは、歯茎より「上」に付着したプラークのことです。歯と歯茎の境目あたりに付着することが多いので、前歯周辺の歯肉縁上プラークは鏡を見たときに気付くこともあるでしょう。プラークに潜む細菌が生み出す酸はむし歯の原因になります。また、歯と歯茎の境目などに溜まったプラークは歯周病の原因になります。

■歯肉縁下プラーク

歯肉縁下(しにくえんか)プラークとは、歯茎より「下」に付着したプラークのことです。歯周ポケットの内部に付着しているため、通常は目視することができません。歯周病が進行するほど歯周ポケットは深くなっていきますが、歯周病菌は酸素を嫌う「嫌気性細菌」なので酸素が少ない歯周ポケットの奥深くを好みます。そのため、歯肉縁下プラークには大量の歯周病菌が棲んでおり、歯周病を悪化させる原因になります。

■バイオフィルムはプラークと同じもの?

バイオフィルム(Biofilm)も、歯周病菌などの微生物やその代謝物の集合体です。では「プラークとは何が違うの?」という話になりますが、結論から言ってしまえば、バイオフィルムとプラークは同じものです。

そもそも、20年以上前はほとんどの歯科関係者が歯垢のことを「プラーク」と呼んでいました。しかし、10年ほど前からでしょうか。プラークの構造がお風呂の排水溝やシンクの三角コーナーなどで見られるヌルヌルと同じ構造であることが、研究によって分かってきました。ここで、このヌルヌルを指す言葉として登場してきたのが「バイオフィルム」です。以降、バイオフィルムという言葉が環境や医科といったさまざまな領域で扱われるようになり、ここから一部の歯科関係者がプラークをバイオフィルムと呼び始めたことで広がっていきました。

そういった経緯もあり、ベテランの先生方が歯垢をプラークと呼び、若い先生方はバイオフィルムと呼ぶ傾向があるように思います。呼び方が異なるのは全く問題ありませんが、歯科関係のブログやWebサイトには「歯磨きで落とせるのがプラーク(歯垢)で、落とせないのがバイオフィルム」「プラークが成熟してできたものがバイオフィルム」といった間違った記載も散見されます。これらは正しくありません。

バイオフィルムとプラークは同じものです。

これらを取り除くには、患者さんご自身による正しいブラッシングが欠かせません。しかし、患者さんご自身ではどうしても取り除けない部位もでてきてしまいます。そのような部位は、歯科医院で適切に除去してもらうことをおすすめします。

■プラークの付着を招く歯石の正体

歯石(tartar)は、歯に付着したプラークが唾液に含まれるカルシウムやリン酸などと反応して石灰化し、石のように硬くなって歯の表面にくっついたものです。

歯石は「死んだ細菌の固まり」であり、プラーク(バイオフィルム)のようにそのものが歯周病を引き起こす原因にはなりませんが、歯石の表面はデコボコしているのでプラークが付着しやすい状態です。そのため、歯石の上にプラークが付着して石灰化するとさらに大きな歯石となり、歯茎の炎症をさらに招く結果となってしまいます。このように、プラークが歯石になってしまうと歯磨きで取り除くのは不可能です。

歯茎の縁よりも上にある歯石は黄色みを帯びた乳白色をしていますが、歯茎の縁より下にある歯石は褐色です。重度の歯周病で抜け落ちた歯を見てみると、そのほとんどに褐色の歯石が付着しています。歯科医院でこの歯石を取り除くことが、歯周病の改善には欠かせません。なお、ご自身で歯石を取ろうとする方もいらっしゃるようですが、歯周組織を傷つけてしまうので決しておすすめできません。

歯周病の予防・治療は「時間との勝負」です

食後8時間ほどでプラークが生成され、そのプラークは約48時間で歯石になってしまうことが明らかになっています。このことからも、歯周病の予防は「時間との勝負」であることがお分かりいただけると思います。

つい、お酒を多く飲んでしまった日は歯を磨かないで寝てしまう、また歯磨きを疎かにしてしまうという方も多いと思いますが、上記からも患者さんご自身で行っていただく歯磨きはとても大切です。ご自宅でのセルフケアと歯科医院で行うプロフェッショナルケアを駆使しながら、歯周病トラブルとは無縁の健康なお口を維持していきましょう。

歯周病でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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監修者情報

公開日:2016年12月1日

更新日:2024年1月22日

清水智幸 東京国際クリニック/歯科 院長

清水智幸(しみずともゆき) 
東京国際クリニック/歯科 院長

歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
日本歯周病学会 認定医
日本臨床歯周病学会 認定医

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