2024.01.22
歯茎が赤い・腫れていると歯肉炎?原因と対策
日常生活の中でなかなか気に留める機会が少ない歯茎の色。歯磨き(ブラッシング)の際の痛みや出血によって、ようやく歯茎が赤くなっているなどの異変に気づく人は多いでしょう。歯茎が赤く腫れ出血を伴うと歯肉炎の可能性が疑われます。歯周病の初期段階である歯肉炎の段階では痛みがないため、初期症状として見過ごしがちに。この状態を放置しておくと、歯周病へと進行します。歯周病が重度になるまで進行してしまうと、最悪の場合は歯を失ってしまう恐れも……。そこで今回は、歯茎が赤くなる原因と適切な対処法についてご紹介します。
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歯茎が赤いときに起きやすい症状
■ブラッシングのときに出血する
歯茎が赤くなっているのは歯茎に炎症が起きている証拠で、ブラッシングをすると出血することがあります。原因としてまず考えられるのが「歯肉炎」です。歯肉炎は、細菌感染によって歯茎に炎症を起こす病気。そのまま放置していると「歯周病」へと発展して、歯茎から膿が出たり、口臭がきつくなったり、歯がグラグラしたりと症状が深刻化してくるので、歯茎からの出血に気付いた時点で歯科医院を受診することが重要です。
また、歯茎は「全身の健康のバロメーター」でもあり、寝不足で疲れていたり、風邪で体調が悪かったり、ストレスが溜まっていたりすると歯茎が赤くなって出血することがあります。その場合は、十分な休息をとったりストレス解消に努めたりすることで自然と出血は収まるでしょう。
歯周病は一度感染したら治らない?
■歯茎がむず痒くなる
歯茎が赤くなっている場合は、歯茎が「むず痒い」と感じることがあります。この場合も、まず疑われるのは歯肉炎です。歯肉炎は初期の自覚症状に乏しい病気で、痛んだりしみたりするケースはほとんどありません。歯茎の赤さやむず痒さなど、いつもとは違った異変に気付くことが大切です。
■硬いものが噛みづらい
歯茎が赤くなっていて、さらに硬いものが噛みづらいと感じる場合は歯周病が進行している可能性が高いです。歯周病が進行すると、細菌によって顎の骨が溶かされていきます。歯を支えている顎の骨が溶かされていくと徐々に歯がグラつくようになり、硬いものが噛みづらくなってきます。
この状態になると食事の際に違和感を覚えるようになるので、多くの人が歯科医院を受診しますが、タイミングとしては遅いと言わざるを得ません。すでに歯周病が重度にまで進行していて、大がかりな治療が必要になるケースが多々あります。さらに受診が遅れると歯を失ってしまうリスクも高くなるので、少しでも噛みづらさを感じたらすぐに歯科医院を受診することが大切です。
■冷たいものがしみる
歯茎が赤くなっているのに加え、冷たいものがしみる場合は、歯周病やむし歯、知覚過敏などが疑われます。
歯周病が進行すると歯茎が徐々に痩せていくため、健康な状態では歯茎に覆われていた「歯根部」が露出してきます。歯根部はエナメル質で保護されておらず刺激に対して敏感なので、冷たいものを口にするとしみるケースがあります。また、むし歯や知覚過敏で歯がしみるケースも少なくありません。歯がしみているのか歯茎がしみているのかは区別がつきにくいので、歯科医院で原因を特定することが先決です。
歯茎が赤くなる病気
歯茎が赤くなる主な病気としては、歯肉炎・歯周病、根尖性歯周炎、口内炎、歯肉がんなどが挙げられます。
■歯肉炎・歯周病
上述のとおり、歯肉炎・歯周病はプラーク(歯垢)中に生息する歯周病菌によって歯茎などの歯周組織に炎症が起きる病気です。歯肉炎・歯周病の代表的な症状が、歯茎が赤くなることです。治療の基本は、原因であるプラークを取り除くことになります。ご自宅でのブラッシングに加え、歯科医院でのメンテナンスによって徹底的にプラークを取り除き、口腔内環境を改善していきます。
歯肉炎と歯周病の違いとは?
歯茎が赤いと歯肉炎かも?
歯肉炎とは、歯周病の初期段階であり、歯茎が赤く腫れたような症状が出るのが特徴です。歯と歯茎の隙間である歯周ポケットに歯垢(プラーク)が溜まり、歯垢に潜んでいる歯周病菌が出す毒素によって歯茎が炎症を起こします。歯肉炎は自覚症状が少なく歯茎が赤く腫れていても見過ごしがちですが、歯茎からの出血は気づきやすい異変のポイントです。吐きだした歯磨き粉に血が混じるなど、歯茎からの出血を確認した場合は、歯肉炎を疑ってみましょう。
■根尖性歯周炎(根尖病巣)
根尖性歯周炎(根尖病巣)とは、歯根の先端に炎症が起きる病気のこと。歯根の先端に膿が溜まり、歯茎の表面が白くなって(もしくは赤くなって)プクッと膨らみます。根尖性歯周炎の原因はいくつかありますが、特に多いのは過去のむし歯です。むし歯が重症化して神経にまで達した場合は「根管治療」をおこないますが、この根管治療が不十分だったために、歯根の先端で再び炎症を起こして根尖性歯周炎になってしまうケースが多く報告されています。その他、外傷や歯根破折によっても根尖性歯周炎が起きるケースがあります。
■口内炎
口内炎はみなさん経験があると思いますが、口腔内の粘膜に起こる炎症のこと。多くの場合、頬の内側や歯茎、舌などにでき、患部は白くえぐれたり赤く腫れたりします。強い痛みやしみる症状に悩まされ、食事やブラッシングのときに苦労します。なお、口内炎には様々な類型がありますが、多いのは「カタル性口内炎」と「アフタ性口内炎」の2つです。
カタル性口内炎
歯茎や頬、舌が赤く腫れており、触ると痛みがある場合はカタル性口内炎の可能性が高いです。カタル性口内炎は、被せ物が合っていなかったり、矯正装置が粘膜に当たったり、やけどをしたりと物理的な刺激が原因になって起きる口内炎です。
アフタ性口内炎
アフタ性口内炎は、口腔衛生環境が悪化することで引き起こされるほか、疲れやストレスの蓄積によって起こる口内炎です。患部は円形に白く腫れ、その周囲が赤くなり、食事やブラッシングの際にしみて激しい痛みを覚えます。
カタル性口内炎もアフタ性口内炎も、多くの場合、1~2週間ほどで自然治癒します。しかし、痛みがひどくて食事もままならないような場合は、歯科医院を受診しましょう。歯科医院では、薬物療法(ステロイドの軟膏を塗る)やレーザー治療などによって口内炎の痛みを軽減させ、早期治癒を促します。
なお、2週間以上経っても口内炎が治らない場合は、後述する口腔がんも疑われます。
■口腔がん
口腔がんは、その名のとおりお口のなかにできるがんのこと。がんができる部位によって、歯肉がん、舌がん、口底がんなど呼び方が変わります。口腔がんは様々な症状がありますが、口内炎と似たような症状が出るので、口内炎と勘違いしないよう注意しなければいけません。
口腔がんの原因は、喫煙や飲酒、虫歯や歯に合っていない義歯による刺激などがあります。治療方法としては、「手術」「放射線療法」「化学療法」などが選択肢になります。他のがんと同様に、早期発見・早期治療が重要なので、口内炎が治らない場合は歯科医院を受診しましょう。また、喫煙や飲酒の習慣がある方は口腔がん検診を受けるのがいいでしょう。
歯茎が腫れる原因
歯茎が腫れる原因はいくつかありますが、もっとも多いのは歯周病です。その他、智歯周囲炎や歯根破折、根尖性歯周炎(根尖病巣)などによっても歯茎が腫れることがあります。
■歯周病
歯周病は口腔内の細菌の繁殖によって、歯茎に炎症が起きる病気です。歯茎がブヨブヨと腫れているなら、多くの場合、歯周病が原因になっています。「歯茎の腫れくらい、大したことはない」と放置されがちですが、歯周病が進行すると歯茎だけでなく顎の骨にも炎症が及んでいき、最悪の場合、抜歯を余儀なくされてしまいます。そうならないよう、歯茎の腫れに気付いた時点で歯科医院を受診することが大切です。
■智歯周囲炎
智歯周囲炎とは、親知らず(智歯)の周囲に起きる炎症のことで、原因は親知らずの周りの細菌です。親知らずが真っ直ぐに生えている人は意外と少なく、多くの方は斜めに生えていたり、途中まで埋もれていたりします。そのため汚れが溜まりやすく、歯ブラシも届きにくいので不衛生になりがち。不衛生になると細菌が増殖しやすく、炎症を起こして腫れてしまうのです。たびたび智歯周囲炎を起こす方は、親知らずの抜歯を検討するケースもあります。
■歯根破折
歯根破折とは、歯茎の中にある歯の根(歯根部)が破折してしまうことを言います。歯根破折が起きると、割れた歯の隙間に細菌が増殖したり、歯の根の破片が残ったりするため、歯茎の腫れを引き起こす場合があります。
なお、歯根破折が起こりやすいのは、過去に神経を抜いた歯です。むし歯が重症化するなどして神経を抜いた歯は、枯れた木のように脆くなっています。そのため、歯根破折が起きやすいのです。また、健康な歯でも交通事故やスポーツ中の衝突、あるいは歯ぎしりや食いしばりなどの癖によって歯根破折を起こすこともあります。
■根尖性歯周炎(根尖病巣)
根尖性歯周炎(根尖病巣)とは、歯根の先端に炎症が起きる病気のこと。歯根の先端に膿が溜まることで、歯茎がプクッと腫れてきます。根尖性歯周炎の原因は多くの場合、過去のむし歯です。むし歯が重症化して神経にまで達すると「根管治療」をおこないますが、根管治療の精度が低いと、再び歯根の先端で炎症を起こして根尖性歯周炎になることが少なくありません。
歯茎が腫れたときの応急処置
歯茎が腫れて痛みがある場合は、すぐにでも歯科医院を受診すべきですが、夜間や休日で受診できないケースもあるでしょう。そのような場合に備えて、応急処置の方法を知っておきましょう。
■患部を冷やす
歯茎が腫れているのは、歯茎が炎症を起こしているからです。炎症によって鈍痛やズキズキした痛みが生じている場合は、冷やすのが効果的。濡れタオルや氷のうで患部を冷やすことで、ある程度は痛みが軽減します。
■市販の痛み止めを飲む
歯茎が腫れていて痛みがひどい場合は、市販の痛み止めを服用しましょう。鎮痛剤が効いてくると痛みは収まりますが、そのまま痛みが消えたとしても歯科医院を受診するようにしてください。
■口内消毒をする・やわらかい歯ブラシを使う
歯茎が腫れている場合、口腔内が不衛生になるとさらに腫れや痛みがひどくなることがあるので、できるだけ衛生的に保つことが重要です。とはいえ、痛みがあるとブラッシングが億劫になってしまいます。そのような場合は、毛先がやわらかい歯ブラシを使ったり、マウスウォッシュで口内消毒をしたりするだけでも構いません。
■体調を整える
体のコンディションが悪くなると歯茎が腫れることがあります。疲労が溜まっている場合は、体力の回復に努めましょう。体調が整えば細菌に対する抵抗力も回復し、歯茎の腫れが収まることもあります。
軽度の歯肉炎・歯周病の治療方法
軽い歯肉炎・歯周病の場合は、プラーク(歯垢)と歯石を除去することが治療の中心になります。プラークや歯石を放置していると症状が悪化する原因になりますが、早い段階で除去できれば、それだけで治癒が期待できます。
ちなみに歯石とは、プラークが唾液の成分と反応して石灰化したもの。歯石そのものは歯肉炎・歯周病の原因ではありませんが、歯石の表面はザラザラしているので歯石が溜まっているとその上にプラークが付着しやすくなります。その意味で歯石は、歯肉炎・歯周病の間接的な原因になるので、除去するに越したことはありません。歯石は歯磨きでは落とせないので、歯科医院で「スケーラー」と呼ばれる専用器具を使って取り除く必要があります。
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重度の歯肉炎・歯周病の治療方法
歯肉炎・歯周病が重度にまで進行してしまった場合は、歯周外科治療(手術)が必要になります。歯肉炎・歯周病が進行すると、歯周ポケットがかなり深い状態になっており、その奥深くにまでプラーク・歯石が溜まっています。そのため、歯茎を切開して歯根部を露出させないとプラーク・歯石を除去できないのです。
なお、外科的治療も症状の重さによって方法が異なります。一般的には、組織付着療法と切除療法があります。
■組織付着療法
組織付着療法とは、歯周ポケットの内部や歯根面にこびり付いた細菌などの有害物質を徹底的に取り除くことを目的とした手術です。
■切除療法
切除療法とは、歯周組織の形態を修正することで歯周ポケットを減らすこと・なくすことを目的とした手術です。
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自分でできる歯肉炎の治し方
歯周病の初期段階である歯肉炎の治療は、自分で行うきちんとした歯磨きに加えて、歯科医院での適切なケアによって歯垢と歯石を取り除くことで、元の浅い歯周ポケットに戻すことができます。
丁寧なブラッシングを行う
歯茎が赤くなったと感じたなら、日々の歯磨きを見直してみましょう。歯磨きにおいてはただ闇雲に磨くのではなく、「きちんと磨けている」ことが大切。口腔内に歯垢を残さないようにすることで、歯周病菌の活動を抑制し歯肉炎の回復につなげられます。
歯磨きのコツは、歯と歯茎の間に歯ブラシの毛先をあてて、圧をかけすぎずに優しく磨くことです。歯を一本一本丁寧に磨く感覚で行ってください。あまりに歯ブラシに圧をかけすぎると擦過傷(さっかしょう)という歯茎に傷ができた状態になってしまうので気をつけましょう。
デンタルフロスや歯間ブラシを使う
どれだけ時間をかけて丁寧に磨いたとしても、歯ブラシだけでは口腔内に60~70%ほどの歯垢が残ってしまうというデータがあります。逆にいえば、口腔内全体の30~40%しか磨けていないということです。歯磨きの際には歯ブラシに加えてデンタルフロスや歯間ブラシなどの補助清掃用具を併用するとよいでしょう。歯と歯の間の汚れは、デンタルフロスや歯間ブラシでしか取り除くことができません。
毎食後の歯磨きの際にデンタルフロスなどの補助清掃用具を併用するのがベストですが、現実的には難しいかもしれませんので、比較的時間のある夕食後や就寝前の歯磨きの際に使うのがおすすめです。
歯科医院での定期検診
歯肉炎の原因である歯垢や歯石を自分だけですべて取り除くことは不可能です。歯周ポケットの奥に詰まった歯垢や歯石は、歯科医院でのメンテナンスによってしっかりと除去しましょう。「スケーリング」と呼ばれる処置によって、歯周ポケットに溜まった歯垢や歯石を取り除けます。
歯肉炎の段階では歯茎にのみ炎症が起こっている状態です。まだ歯周ポケットも浅いため、きちんと歯磨きをすることに加え、歯科医院で適切なケアを受けることで歯茎の炎症は治まり、元の浅いポケットへと戻ります。歯肉炎の段階では歯茎への影響が少なく歯周ポケットがまだ浅いため、比較的かんたんに完治させることができます。大切な自分の歯を失わないためにも、常日頃から歯茎の状態(色味や腫れなど)にも注意して歯磨きをすることが大切です。定期的に歯科医院へ通い、歯茎の状態を把握できるようにしておきましょう。
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監修者情報
公開日:2019年10月20日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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