2024.02.13
歯周病が関係している全身疾患~糖尿病・心臓疾患・関節リウマチ~
歯周病と全身疾患の知られざる関連性
歯周病といえば、歯茎から血が出たり、口臭を発したり、歯がグラついたりする、お口の中の病気です。歯周病を放置すると歯を失う危険性がどんどん高まるため、異変に気付いた時点で早めに適切な治療を行う必要があります。
しかし、歯周病はお口の中だけの病気ではなく、全身疾患とも深い関係性があることをご存知ですか? 近年の研究により、歯周病にかかると糖尿病が悪化したり、心臓疾患のリスクが高まったりすることが明らかになってきています。そこで今回は、歯周病と全身疾患の関連性についてご紹介します。
歯周病の影響は口腔内だけにとどまらない
歯周病は、歯垢(プラーク)が原因で引き起こされる歯茎の感染症です。歯垢の中に潜む歯周病菌が毒素を出すことで歯を支える骨(歯槽骨)が溶かされ、そのまま放置すれば最悪の場合は歯が抜け落ちてしまうこともあります。歯周病は日本人が歯を失う原因の第1位であり、30歳以上の80%がすでにかかっているかその予備軍とされています。
たとえ1本でも歯を失ってしまうと空いたスペースを埋めようと、隣の歯が倒れてきたり、歯列が崩れることで噛み合わせが悪くなったりするなど、咀嚼能率が下がる原因になります。さらに、歯周病が進行すると歯周病菌が歯茎の毛細血管から侵入し、血液中を巡りながら各臓器へと運ばれます。そして、全身の臓器に大きな影響を及ぼすことが確認されているのです。
歯周病との関連性が明らかになっている6つの全身疾患
歯周病は糖尿病や心臓疾患など、以下の6つの全身疾患との関連性が明らかになっています。
糖尿病
糖尿病は血糖値を下げるインスリンというホルモンが十分に作用しなくなり、ブドウ糖がうまく活用されずに血糖値が高くなる病気です。歯周病の炎症によって作り出される物質(サイトカイン)によって血糖値のコントロールがしにくくなり、糖尿病を悪化させてしまいます。なんと、歯周病にかかると糖尿病のリスクが3~4.2倍に増加すると報告されており、2つの病気は密接な関わりがあることがお分かりいただけるでしょう。
また、歯周病の治療を行ったことで、糖尿病の指標であるHbA1c(過去1~2ヶ月の血糖値の平均)が最大で1%減少したという論文(※)が発表されています。ちなみに、正常値のHbA1cの上限はおよそ6%で、6.5%以上で糖尿病と考えられます。
逆に、糖尿病になると免疫力が低下し、歯周病などの感染症にかかりやすくなります。糖尿病は歯周病を悪化させ、歯周病も糖尿病を悪化させるなど、双方で悪影響を及ぼしているということです。
※出典:奥田克爾著『口腔内バイオフィルム』医歯薬出版株式会社
心臓疾患
心臓疾患の中でもとくに歯周病と関連がある病気として挙げられるのが「感染性心内膜炎」です。これは心臓の内壁を覆っている膜「心内膜」に細菌などが感染して炎症が起こり、心臓の働きが低下する病気です。歯周病に感染すると歯茎から血管内に細菌が侵入し、血流にのって心臓に運ばれることで感染性心内膜炎を発病することがあります。
とくに、感染症に対する抵抗力が落ちている人や弁膜症など心臓の病気がある人に起こりやすい病気です。心臓疾患の発症リスクを下げる目的として、感染性心内膜炎のガイドライン(※)にも、歯周病をはじめとする口腔内疾患を治療することが重要であることが明記されています。なお、歯周病にかかっている人は、狭心症や心筋梗塞などの心疾患のリスクが1.9倍に高まるとされています。
※日本循環器学会、日本胸部外科学会、日本小児循環器学会、日本心臓学会 合同研究班著『感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)』
誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む働きを嚥下(えんげ)機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)といいます。「誤嚥性肺炎」は嚥下機能障害のため、唾液や食べ物などと一緒に、誤って細菌を気道に吸引することで発症します。肺炎を起こす細菌の主な感染経路は「気道」です。高齢者の方は誤嚥するだけでなく気管に入ったものを出せずに、そのまま細菌が肺に入って炎症が起こります。それが「誤嚥性肺炎」です。とくに、食べ物と細菌が同時に入ってしまうと重症化しやすいという報告があります。
歯周病菌が気道経由で感染を広げる病気の代表であり、歯周病にかかっていると誤嚥性肺炎のリスクが1.74~4.5倍になるとされています。
脳血管疾患
「脳血管疾患」は、脳の血管のプラークが詰まったり、頚動脈や心臓から血の塊やプラークが飛んできたりすることで、脳血管が詰まる病気です。歯周病菌が血液中に侵入し、血管壁の細胞に炎症を起こし動脈硬化の進行に影響を及ぼしていることが考えられます。
また、歯周病にかかっていると脳梗塞になるリスクが2.8倍に高まるとされています。
早産・低出生体重児
妊娠中の女性が歯周病に感染すると、歯周病菌が羊水(ようすい)に混ざって、胎児の成長を妨げると考えられます。また、「サイトカイン」という炎症性物質が血管内に広がることが引き金となり、子宮の収縮や陣痛を促すのです。母親のお腹の中で胎児が十分に成長していないのにも関わらず、体が出産準備に入ってしまうため早産で2.27倍、低出生体重児で2.83倍まで確率が高まることがわかっています。
関節リウマチ
「関節リウマチ」は免疫の異常により手足の関節が腫れたり、痛んだりする病気です。歯周病菌が作り出す毒素(炎症性物質)によって、関節リウマチが発症・進行したり、症状が重くなったりすることや、歯周病の治療によって、関節リウマチの症状が改善することが明らかになっています。
歯周病の予防と生活習慣の改善を並行して行おう
糖尿病などの全身疾患の悪化を招く歯周病。健康な毎日を送るためにも、日頃から口腔内を清潔に保つことが大切です。歯周病予防には毎日の適切な歯磨きが欠かせません。口腔内の健康状態を保つことが、結果的に全身の健康にもつながるのです。ただし、セルフの歯磨きだけでは限界があり、歯周ポケットの奥深くに詰まった歯垢や歯石までは除去できないため、歯科医院で定期的にクリーニングを受けることをおすすめします。
監修者情報
公開日:2019年10月23日
更新日:2024年2月13日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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