2024.02.13
歯肉炎と歯周炎の違いとは?
歯肉炎と歯周病の違い
歯肉炎と歯周病は、病気としての進行度合いや症状が異なります。最初に歯肉炎になり、放置していると歯周病へと進行していきます。歯肉炎と歯周病の大きな違いは、以下の3点です。
■炎症がどこまで進行しているかの違い
歯肉炎は、炎症が歯茎(歯肉)だけに留まっている状態です。一方で、歯周病は炎症が顎の骨や歯根膜にまで及んでいる状態です。
■症状の違い
歯肉炎になると、歯茎が赤く腫れたり、ブラッシングをしたときに歯茎から出血したりします。一方で、歯周病へと進行すると、歯茎の腫れや出血だけでなく、「歯茎から膿が出る」「口臭がきつくなる」「歯がグラグラする」といった症状が出てきます。
■歯周ポケットの深さの違い
歯周ポケットとは、歯と歯茎の隙間のことです。一般的に、歯茎の炎症がひどくなるほど歯周ポケットが深くなっていきます。歯肉炎のうちは歯周ポケットは浅いものの、歯周病へ進行すると歯周ポケットが深くなっていくということです。
歯周ポケットの深さは、歯科医院でのプロービング検査によって測定できます。プロービング検査では、「プローブ」という専用機器を使って歯周ポケットの深さを測ります。歯周ポケットが2mmより浅ければ健康な状態だと考えられますが、歯茎の腫れや出血などの症状がある場合は歯肉炎にかかっているかもしれません。
歯周病へと進行すると、歯周ポケットは2mm以上になります。歯周病は3つの段階に分類されますが、それぞれ歯周ポケットの深さは以下が基準とされています。
・軽度の歯周病(軽度歯周炎):2~4mm
・中度の歯周病(中度歯周炎):4~6mm
・重度の歯周病(重度歯周炎):6mm以上
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歯肉炎の原因
歯肉炎の直接的な原因は、口腔内に溜まるプラークです。プラークに潜む原因菌によって、歯茎に炎症が起きます。歯肉炎のメカニズムを簡単に説明すると、以下のようになります。
→ 日々の歯磨きの精度が低いと、口腔内にプラークが溜まる。
→ 口腔内のプラークが増えてくると、プラークに潜む歯周病菌も増殖する。
→ プラーク内に増殖した歯周病菌が出す毒素によって歯茎が侵され、歯肉炎を発症する。
逆に考えると、口腔内にプラークがなければ歯肉炎にはなりません。ですが、口腔内のプラークを常にゼロにしておくのは現実的に難しいため、できるだけプラークが少ない口腔内環境を維持することを心がけましょう。毎日のブラッシングをサボりがちだと口腔内環境は悪化しがちで、歯肉炎になるリスクも高くなってしまいます。
ちなみに、プラークの中には様々な種類の細菌が生息しています。当然、虫歯菌も生息していますので、プラークが溜まると歯肉炎だけでなく虫歯になるリスクも高くなります。お口の健康維持を考えた場合、プラークは最大の邪魔者だということです。
■薬の副作用による歯肉炎
薬の副作用によって歯茎の組織が過剰増殖(過形成)することがありますが、その結果、プラークが溜まりやすくなり歯肉炎を招くケースがあります。歯茎の組織の過剰増殖(過形成)を起こす薬としては、高血圧の治療に使われる「降圧剤」や、けいれんを止める「抗てんかん薬」などが挙げられます。また、経口避妊薬や注射用避妊薬が歯肉炎を悪化させることが指摘されています。歯肉炎がなかなか治らない場合は、内服している薬を確認しなければいけません。
■ビタミンC欠乏症による歯肉炎
ビタミンCの摂取が極度に不足することで様々な症状を引き起こす「ビタミンC欠乏症(壊血病)」という病気があります。ビタミンC欠乏症によって引き起こされる症状の一つが歯肉炎です。ビタミンCは体内のコラーゲンを生成し、荒れた粘膜を回復させる働きがありますが、不足すると毛細血管の結合力が弱まり、少しの刺激でも歯茎が出血しやすくなります。ビタミンC欠乏症は、果物や野菜、またビタミンCのサプリメントを積極的に摂取することで治療できます。
■白血病による歯肉炎
白血病は「血液のがん」と言われる病気で、遺伝子変異を起こした造血細胞(白血病細胞)が骨髄で増殖することで正常な造血が阻害されます。造血が阻害され正常な血液細胞が減少すると感染症や貧血、出血などが起こりやすくなり、歯肉炎(白血病性歯肉炎)を招くケースもあります。白血病性歯肉炎では、歯肉が赤く変色して出血しやすくなります。また、白血病患者は血液が凝固しにくいため、出血が数分以上続くことも少なくありません。
■再生不良性貧血による歯肉炎
再生不良性貧血とは、骨髄にある造血幹細胞が減少することによって、血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する病気です。白血球が減ることで発熱や咳など感染症の症状が現れ、赤血球が減ることで動悸や息切れ、めまい、疲れやすさ、頭重感などの貧血症状が現れます。また、血小板が減少することで易出血性(アザができやすい)のほか、歯肉から出血する歯肉炎の症状が現れることがあります。
■糖尿病による歯肉炎
歯周病は「糖尿病の合併症の一つ」と言われることがあり、実際に、糖尿病患者はそうでない人に比べて歯肉炎・歯周病に罹患している人が少なくありません。糖尿病にかかっている人は歯肉炎・歯周病にかかるリスクが高く、逆に歯肉炎・歯周病に感染すると糖尿病が悪化しやすくなることは、様々な研究結果によって明らかになっています。また、歯肉炎・歯周病を治療することで血糖値が改善し、糖尿病も改善につながるという報告があり、この2つの病気は双方向に影響を及ぼす関係にあることが分かっています。
歯石も歯肉炎の原因になる!?
歯石は、プラークが石灰化して硬くなったものです。歯石は死んだ細菌の塊なので、歯石そのものが歯肉炎の原因になることはありません。ですが、口腔内に歯石があるとプラークが溜まりやすくなるという問題点があります。歯石の表面はザラザラしているので、どうしても歯石の表面にはプラークが付着しやすいのです。
つまり、「歯石が多い人はプラークが溜まりやすい」→「歯肉炎のリスクが高い」ということになります。歯石は、歯肉炎の間接的な原因になります。歯肉炎の発症・進行を抑えるためには、プラークとともに歯石を取り除くことも大切です。
生活習慣によって歯肉炎になる!?
上述のとおり、歯肉炎の直接的な原因はプラークです。しかし、以下のような生活習慣も歯肉炎を引き起こす間接的な原因になるので要注意です。
■ブラッシング
歯磨きをサボりがちだったり、歯磨きが雑になったりすると、口腔内にプラークが溜まります。そうなると、歯肉炎を発症しやすくなります。一方で、正しいブラッシングが習慣化できている人は、口腔内のプラークが少ない状態をキープできるため、歯周炎になるリスクも低いと言えるでしょう。
なお、「お酒が歯肉炎の原因になる」と考えている人もいますが、アルコールによって歯肉炎を発症するというデータはありません。しかし、一歩踏み込んで考えてみると、お酒を飲むと歯磨きがおろそかになるというケースはあると思います。お酒を飲んで帰った日、歯を磨かずに寝てしまった経験はないですか? お酒を飲んだ翌朝、二日酔いで歯磨きができなかった経験はないですか? 「お酒で歯磨きがおろそかになる」→「プラークが溜まる」→「歯肉炎になる」という悪循環は考えられるので、心当たりのある方は注意しましょう。
歯周病と歯磨き(ブラッシング)
■タバコ
タバコを吸うと白血球の機能が低下するため、あらゆる細菌に対する抵抗力が下がります。そのため、非喫煙者より喫煙者のほうが歯肉炎になるリスクが高くなります。また、タバコを吸っている人は、歯肉炎にかかっていてもその症状に気付きにくく、歯周病に進行するのを許してしまうケースが多々あります。なぜなら、タバコに含まれるニコチンが毛細血管を収縮させ、歯茎から出血しにくくなるからです。歯肉炎・歯周病にかかりたくないと思うなら、禁煙は必須です。
■ストレス・疲れ
ストレスを溜めていたり、疲れていたりすると、誰でも免疫力が低下して細菌に感染しやすい状態になります。そのため、歯肉炎にかかるリスクも高くなります。十分な睡眠と適度な運動を心がけ、ストレス・疲れを溜めない生活を心がけましょう。
■歯冠周囲炎
歯冠周囲炎とは、埋伏歯(完全に生えきっておらず、一部が歯茎に埋もれている歯)の周辺に起こる歯肉炎のことです。完全に生えきっていない歯には歯茎が被さっていますが、その隙間に食べカスやプラークが溜まりやすいため、周囲の歯茎が炎症を起こしやすくなってしまいます。歯冠周囲炎は特に親知らずの周辺に起こりやすく、特に下顎の親知らずによく見られます。歯冠周囲炎がひどくなると、感染が喉や頬まで広がってしまうことがあるので注意が必要です。
勘違いされやすいケース
■ウイルス感染
まれに、ウイルス感染によって歯肉炎のような症状が現れるケースがあります。たとえば、ヘルペス性歯肉口内炎は、歯茎など口腔内の部位がヘルペスウイルスに感染して起こります。歯茎が鮮やかな赤色に変色し、口腔内に多数の白色や黄色の小さなただれができるのが特徴です。
■真菌感染
真菌感染によって歯肉炎のような症状が現れるケースがあります。口腔内にはごく少数の真菌が生息していますが、何らかの原因で口腔内の真菌が増えることがあります。口腔カンジダ症は真菌感染の一つで、カンジダ菌の異常増殖によって起こります。歯茎に白や赤の斑点ができ、ふき取ると出血するのが特徴です。
歯肉炎の症状
歯肉炎の代表的な症状は以下の2つです。
・歯茎が炎症を起こして赤く腫れる。
・ブラッシングの際に出血することがある。
痛みなどの分かりやすい症状が出ないため、気付きにくい病気だと言えます。実際に、歯肉炎にかかっていても気付いていない人は少なくありません。しかし、歯肉炎を放置していると、上述のとおり「軽度歯周炎」「中度歯周炎」「重度歯周炎」と徐々に進行していきます。そうなると、腫れや出血だけでなく、歯茎から膿が出たり、口臭がひどくなったりと、厄介な症状に悩まされるようになっていきます。
■Q:歯茎から血が出ますが、歯肉炎ですか?
歯肉炎にかかると歯茎に炎症が起きるため、歯茎から出血するようになります。歯肉炎の場合、ブラッシングのときに歯茎から血が出るのが典型的な症状です。一時的な出血であれば心配はありませんが、しばらく出血が続くようであれば歯肉炎(もしくは歯周病)の可能性があるので、歯科医院を受診したほうがいいでしょう。また、何もしていなくても歯茎から出血している場合は、重度の歯周病のおそれがあるため、早めの受診をおすすめします。歯茎からの出血については、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
■Q:歯茎が赤く腫れていますが、歯肉炎ですか?
「歯茎が赤く腫れている=歯肉炎」とは限りませんが、その状態がしばらく続くようであれば歯肉炎が疑われます。歯肉炎の段階であれば、毎日の歯磨きでプラークを取り除くことができれば治癒させることが可能です。しかし、口腔内環境を改善できないと歯周病へと進行して、歯茎からの出血・排膿や口臭などの症状が出てきます。厄介な症状に悩まされたくないのであれば、歯肉炎の段階でストップをかけることが重要です。歯肉炎を歯周病にしないための取り組みについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
■Q:歯茎がむずかゆいのですが、歯肉炎ですか?
歯肉炎の段階では、歯茎がむずがゆくなることはあまりありません。しかし、歯周病に進行している場合は、歯茎がむずがゆくなることがあります。ただし、食物アレルギーや金属アレルギーで歯茎がむずがゆくなるケースもあるため、一概に歯周病が原因とは言えません。いずれにしても、心配な場合は一度、歯科医院を受診しましょう。歯茎がむずがゆくなる原因や治療法については、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
歯茎がむずがゆい原因は歯周病?適切な改善方法
■Q:歯茎から膿が出るのですが、歯肉炎ですか?
歯肉炎の主な症状は、歯茎の腫れや出血です。歯茎から膿が出ている場合は、すでに歯肉炎の段階を通り越して中度以上の歯周病になっている可能性があるため、早めに歯科医院を受診しましょう。なお、歯茎から膿が出る原因は歯周病だけではなく、根尖病巣(こんせんびょうそう)や歯根嚢胞(しこんのうほう)といった病気も疑われます。歯茎からの膿については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
歯茎が臭い?歯根嚢胞など排膿の原因について
■Q:最近、口臭が強くなった気がするのですが、歯肉炎ですか?
中度以上の歯周病の場合、口臭がきつくなります。口臭が強くなったと感じるのであれば、歯肉炎ではなく中度以上の歯周病へと進行している可能性が高いです。ただし、口臭を引き起こす原因は歯周病以外にも考えられます。口臭が気になる方は、一度、歯科医院を受診してみましょう。口臭の原因や対策については、以下の記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。
よくある質問
歯周病を治さないでいると、どうなるのでしょうか?
歯周病を放置していると歯を支えている顎の骨がどんどん溶かされていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。また、歯周病菌が血流に乗って全身を巡ることで、様々な全身疾患の引き金になることが分かっています。たとえば、糖尿病が悪化したり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたりすることがあるので、注意が必要です。その他、誤嚥性肺炎や骨粗鬆症、腎炎や関節炎の原因になるほか、妊婦さんの場合は、早産や低体重児出産のリスクが高くなることも明らかになっています。
歯周病の治療方法
歯周病治療は、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
歯周病治療の基本は、原因であるプラークや歯石を取り除く治療が中心になります。軽度の歯周病であれば、スケーリングやデブライドメントなどの非外科処置でプラーク・歯石を取り除いていきます。歯周病が中度や重度にまで進行している場合は、歯周ポケットの奥深くにまでプラーク・歯石がこびり付いているため、歯茎を切開してプラーク・歯石を除去する外科処置をおこなう場合もあります。歯周病治療の詳細は以下のページをご覧ください。
歯周病の治療方法
監修者情報
公開日:2019年10月28日
更新日:2024年2月13日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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