2024.01.23
インプラント手術の痛みと腫れはどのくらい?
インプラント手術とは?
インプラントとは、歯を失ってしまった部分の顎の骨にインプラント(人工の歯根)を埋め込んで、その上に人工の歯を被せる治療法です。インプラント埋め込みのための手術が必要になるのがデメリットですが、ほぼ天然歯と変わらない噛み心地と自然な見た目を得られることから、近年はインプラント治療を選ぶ人が増えています。
インプラント手術時の痛みについて
インプラント治療は顎の骨に人工歯根を埋め込む手術が必要になることから、「痛そう・・・」と不安に思う方は多くいます。ただ、100%痛みがないとは言い切れませんが、手術時に痛みを感じる心配はほとんどありません。歯科で用いる麻酔は日々進化しており、患者さまの負担が少ない麻酔法が登場していますので、安心して安全なインプラント手術を受けていただけます。
インプラント手術では、まず局所麻酔をおこないます。「麻酔が効かないことはないの・・・」といった不安の声を耳にすることはありますが、しっかり麻酔が効いていることを確認してから歯茎を切開するため、ご心配には及びません。
また、手術に対する恐怖心が強い方には静脈内鎮静法という麻酔法を用います。静脈内鎮静法の詳細は後述しますが、簡単に言えば、眠っているような快適な状態になって恐怖心や緊張がなくなる麻酔法です。副作用無し・後遺症無しの麻酔法なので、安心してインプラント手術に臨んでいただけます。
■痛みを感じさせない局所麻酔法
インプラント手術では、必ず局所麻酔をおこないます。局所麻酔の目的は、当然ですが、患者さまに痛みを感じさせなくすることです。局所麻酔と言っても、一般的に歯科で用いられるものには「表面麻酔法」「湿潤麻酔法」「伝達麻酔法」の3種類があります。
表面麻酔法とは?
表面麻酔法とは、麻酔薬を歯茎の表面に塗って感覚を麻痺させる麻酔法で、後述する浸潤麻酔法や伝達麻酔法をおこなう前におこないます。浸潤麻酔法や伝達麻酔法では注射をして麻酔薬を注入しますが、その前に表面麻酔をしておくことで、注射針が歯茎に刺さるときの痛みをほとんど無くすことができます。その意味で、表面麻酔法は「麻酔の痛みを無くすための麻酔」とも言えるでしょう。
浸潤麻酔法とは?
浸潤麻酔法とは、治療する歯の近くを麻痺させるために歯茎に麻酔薬を注射する麻酔法です。一般的に歯科の麻酔と言えば、この浸潤麻酔法を指します。歯茎に注射するときの痛みや、麻酔薬を注入するときの痛みが苦手な方は多くいますが、以下のように、浸潤麻酔法の痛みを軽減するための手法が数多く登場しています。
- 事前に表面麻酔をすることで歯茎を麻痺させてから注射する。
- 極細の針を使って注射する。
- 麻酔薬の温度管理をして、痛みを感じにくい温度の麻酔薬を注入する。
- 電動式注射器を使って、一定のスピードで麻酔薬を注入する。
このような手法を用いることで、ほとんど痛みのない浸潤麻酔が可能になります。
伝達麻酔法とは?
伝達麻酔法とは、口腔内のなかでも麻酔が効きにくい部分に用いることが多い麻酔法です。太い神経の近くに麻酔をすることで、広い範囲に麻酔効果が得られるのが特徴です。また、麻酔の持続時間が長いので、インプラント治療後の痛みもあまり気にならなくなります。
■不安・恐怖を感じさせない静脈内鎮静法
局所麻酔をすることで、痛み無しでインプラント手術を受けることができます。とはいえ、全身麻酔をするわけではないので手術中は意識があり、顎の骨をドリルする音や治療機器の音、ドクターの会話などが聞こる状態です。それゆえに感じる緊張やストレス、不安などから、場合によっては呼吸・血圧・脈拍などに影響が出てしまうことがあります。このようなリスクを排除するために用いられるのが、静脈内鎮静法です。
静脈内鎮静法とは、インプラント手術などの歯科治療に伴う恐怖心や不安感を取り除くことができる麻酔法です。静脈から点滴で鎮静薬を投与することで、眠っているようにうとうとした状態になるのが特徴で、「緊張が緩和する」「リラックスする」「不安が和らぐ」といった効果が認められます。いわゆる「眠りの感覚」には個人差がありますが、インプラント治療では「気付いたら手術が終わっていた」という患者さんも多くいます。もちろん、副作用や後遺症などもなく、メリットの多い麻酔法の一つです。
静脈内鎮静法は麻酔医が在籍する歯科医院で
静脈内鎮静法を取り入れる歯科医院は増えていますが、どの歯科医院でも安心して治療を受けられるわけではありません。
静脈内鎮静法は安全性が確認されている麻酔法ですが、ごくまれに呼吸や血圧に影響を及ぼす場合があります。静脈内鎮静法を受けるなら、不測の事態に備えるため、麻酔医が在籍している歯科医院を選択すべきでしょう。麻酔医がいれば、静脈内鎮静法をおこなっている間、麻酔医が血圧、心電図、心拍数、血中酸素飽和濃度などをモニタリングしながら全身管理をおこなうため、患者さまは安心してインプラント治療を受けることができます。
インプラントの手術時間と入院について
インプラント治療は手術を伴いますが、入院の必要はなく日帰りが可能です。
手術時間は、早ければ30分程度です。埋入するインプラントの本数が多くなれば手術時間も長くなりますが、その場合でも、2~3時間で終わるケースがほとんどです。なお、顎の骨が少ない患者さまは、インプラントの埋入と同時に骨の再生治療をおこなうことがありますが、その場合も1~2時間で完了します。
※インプラントの手術時間はあくまでも目安です。執刀するドクターや用いる術式、また患者さまの状態などによって変わってきます。
インプラント手術後の痛みや腫れについて
■手術後の痛みについて
インプラントの手術後、麻酔が切れると患部に痛みが生じることがあります(個人差があります)。通常のインプラント治療であれば痛みは数日でおさまりますが、切開部分が大きい場合や骨移植をおこなった場合などは長引くケースもあります。
とはいえ、処方された痛み止めや抗生剤などをきちんと服用していれば、日常生活に支障をきたすような痛みを感じることはないはずです。
■手術後の腫れについて
インプラントの手術後は、患部周辺に腫れが生じることがあります(個人差があります)。特に、埋入したインプラントの本数が多い場合や、骨移植をおこなった場合などは腫れが生じやすい傾向にあります。
腫れのピークは術後2日目で、その後は徐々に元に戻っていくため心配はありません。通常、腫れがひくまでにかかる期間は1週間くらいです。また、患部周辺が内出血を起こして顔の一部が紫色になることがありますが、この場合も1週間くらいでおさまるのでご安心ください。
■手術後の注意点
インプラントの手術後は、患者さまの過ごし方が原因で痛みや腫れがひどくなったり、細菌感染を起こしたりするケースがあります。ドクターから注意事項の説明があると思いますが、以下の3点には特に注意をしてください。
自己判断で薬の服用をやめるのはNG!
インプラントの手術後に処方された薬は、特別な指示がない限りすべて服用してください。自己判断で途中で服用するのをやめてしまうと、痛みや腫れが引かないばかりか、細菌感染を引き起こすリスクが高まります。
プラークを溜めるのはNG!
インプラントの手術後1週間くらいは、患部の出血を防ぐためにブラッシングを控える必要があります。ですが、まったく歯磨きしないのは逆にNG。プラーク(歯垢)が溜まってしまうと、細菌感染を引き起こすリスクが高くなるからです。
喫煙・飲酒はNG!
インプラントの手術後に喫煙・飲酒をすると、痛みや腫れが長引く原因になります。タバコを吸うと白血球の働きが低下して、歯茎の炎症が起こりやすくなります。また、お酒を飲むと血圧が上がるため、痛みや出血が生じやすくなります。
まとめ
インプラント治療の大きなメリットは、「他の歯に負担をかけないこと」「顎の骨が痩せないこと」です。結果的に、口腔内全体の健康を長く維持していけます。
痛みや腫れを気にしてインプラント治療をためらっている方もいらっしゃいますが、本記事でご説明したとおり、手術時の痛みはほとんどありません。術後は、ある程度の痛み・腫れがありますが、1週間ほどでおさまります。わずか1週間の痛み・腫れを気にしてインプラント治療を選択肢から外してしまうのは、正しい判断とは言えません。患者さまの口腔内の状態によって最適な治療法は変わってきますが、長期的な口腔内の健康維持を重視するなら、インプラントを第一の選択肢として考えておいたほうがいいでしょう。
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監修者情報
公開日:2020年2月16日
更新日:2024年1月23日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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