2024.01.22
歯周病で痰や咳が出たら要注意!別の病気を誘発しているリスクも
歯周病による全身の病気
歯周病は、プラーク(歯垢)に潜む歯周病菌を原因とする細菌感染です。歯茎に炎症が起きてブラッシング時に出血するのが歯周病の症状の初期段階ですが、そのまま放置しておくと炎症が顎の骨に及んで歯がグラついてきて、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
このように歯周病は恐ろしい病気ですが、歯周病の影響はお口のなかだけに留まりません。近年の研究では、歯周病が全身疾患の引き金になったり、様々な病気を悪化させる原因になったりすることが分かっています。
歯周病が全身疾患を引き起こす(悪影響を及ぼす)メカニズムは以下のとおりです。
歯周病の前段階である歯肉炎の症状として、歯茎の腫れや出血がおこり、やがて歯周病になる。
⇒ 歯周病が進行すると歯茎に炎症がひどくなり、歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)が深くなる。
⇒ 歯周ポケットはプラークが溜まりやすいうえ、環境的に歯周病菌が繁殖しやすい。
⇒ 歯周ポケット内で増殖した歯周病菌が血管に入り込み、血流に乗って全身をめぐる。
⇒ 血液循環によって歯周病菌が全身に運ばれることで血管や臓器に炎症を起こし、全身疾患を引き起こしたり、全身疾患に悪影響を及ぼしたりする。
具体的には、歯周病と糖尿病が相互に悪影響を及ぼすことや、歯周病が心臓病や脳梗塞などの疾患の原因になることなどが分かっています。さらに、歯周病にかかっている妊婦さんは早産・低体重児出産のリスクが高まることも明らかになっています。
また、歯周病菌が体内に入り込むのは血管からだけではありません。別の経路として気道があります。唾液に含まれる歯周病菌が誤って気道に入り込んでしまうと、後述する「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こすリスクもあります。
歯周病との関連性が明らかになっている主な疾患・トラブルは以下のとおりです。
■糖尿病
糖尿病にかかっている人は歯周病にかかるリスクが高く、逆に歯周病に感染すると糖尿病が悪化しやすくなることが明らかになっています。また、歯周病を治療することで血糖値が改善し、糖尿病の改善にもつながるという報告があり、歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼすことが分かっています。
■脳血管疾患
脳梗塞の患者は歯周病に感染している割合が高いことが明らかになっています。メカニズムとしては、歯茎の炎症部分から血管に入り込んだ細菌が全身をめぐることで、脳梗塞の原因となる動脈硬化を招いていると考えられています。
■心臓疾患
歯周病が進行すると歯茎から血管に細菌が入り込み、血流に乗って心臓に運ばれると心臓疾患を引き起こすリスクが高まります。これは、歯周病菌によって心臓の血管が詰まり、心臓の血管の細胞に障害が起きることがあるからです。
■誤嚥性肺炎
誤嚥(ごえん)とは、加齢によって飲み込む力が衰えることで、飲食物が誤って気管に入り込んでしまうことを言います。誤嚥によって唾液に含まれる歯周病菌が気管に入り、それが肺にまで到達すると誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こすリスクが高くなります。誤嚥性肺炎は日本人の死因の7位であり、年間の死亡者数は約36,0000人に及びます(厚生労働省 2017年人口動態調査より)。
■早産・低体重児出産
歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんに比べて早産・低出生体重児の確率が約2~4倍になるというデータがあります。早産とは妊娠期間が22週以上37週未満の分娩のことで、低体重児とは出生時の体重が2,500g未満の新生児のこと。早産や低体重で生まれた赤ちゃんは病気にかかりやすく、障害を負うリスクが高くなることが分かっています。
■骨粗しょう症
骨粗しょう症は閉経後、女性ホルモンの分泌低下によって起こる「骨が弱くなる病気」です。骨粗しょう症の人は歯を支えている顎の骨も弱くなっているため、歯周病が発症・進行しやすい傾向にあります。また、歯周病が重症化して歯が抜けてしまった人は、食べ物をうまく噛めなくなり食事のバランスが偏ってしまうため、体全体の骨密度が低下し、骨粗しょう症の進行スピードも早くなるという悪循環を招きます。
歯周病と「歯性上顎洞炎」の関係性
一般的に、歯周病の症状として「痰が出る」ということはありません。もし歯周病で痰が出る場合は、歯周病が進行することで他の病気を併発していることを疑ったほうがいいでしょう。その可能性の一つとしてあげられるのが、「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」という病気です。
■歯性上顎洞炎とは?
歯性上顎洞炎とは、上顎洞に炎症が起きる病気です。上顎洞は「頬の骨の裏側」「上の奥歯の上側」「鼻の左右」に広がる空洞のことです。
むし歯や歯周病を放置していると、細菌が上顎洞に入り込んで歯性上顎洞炎を起こします。上顎洞は上の奥歯の根尖(根元)と接しているので、上の奥歯が歯周病になっている人は要注意です。そのまま放置することで歯周病菌が上顎洞にまで侵入すると、歯性上顎洞炎に発展してしまう可能性があります。
歯性上顎洞炎は、むし歯や歯周病の進行によって起こるケースが多いですが、それ以外にも、根管治療やインプラント治療の精度が低い場合などにも歯性上顎洞炎を招くケースがあります。
歯性上顎洞炎で痰が出る
歯性上顎洞炎になると、「鼻が詰まる」「痰が出る」「膿みのような黄色い鼻水が出る」「頬が痛む」「目の下が腫れる」などの症状が現れます。ちなみに、歯性上顎洞炎は蓄膿症(ちくのうしょう)の一種なので、蓄膿症と似た症状が出るのが特徴です。
■歯性上顎洞炎の検査方法・治療方法
歯性上顎洞炎が疑われる場合は、単純X線検査やCT検査による検査がおこなわれ、歯性上顎洞炎が確定したら抗菌薬投与や上顎洞の洗浄などの治療がおこなわれます。その他にも、原因となっている歯の治療(むし歯治療・歯周病治療)が必要になり、症状がひどいときは、抜歯せざるを得ないケースもあります。歯性上顎洞炎にならないようにするには、むし歯や歯周病を軽度のうちに治してしまうことが重要です。
歯周病と「肺炎」の関係性
肺炎とは、細菌感染によって肺に炎症が起きること。死因の4位は肺炎で、高齢者(65歳以上)の死亡原因、第1位は肺炎と報告されています。肺炎の中でも、口の中の細菌が肺に入り込み炎症を起こす肺炎を誤嚥性肺炎や嚥下性肺炎といいます。
■誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)とは?
年をとると、本来食道に入るものが誤って気道に入ってしまうことがあります。飲食物などが誤って気道に入りかけると、通常はむせたり咳きこんだりして(咳反射)それを防ぐことができますが、高齢者になってくると話は別です。高齢者はものを飲み込む機能や咳反射の機能が低下しているため、飲食物などが気道に流れ込んでしまうケースが多いのです。この現象を「誤嚥(ごえん)」と言います。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは、誤嚥によって起こる肺炎のことで嚥下性肺炎(えんげせいはいえん)とも呼ばれます。メカニズムは以下のとおりです。
⇒ 唾液のなかには、多かれ少なかれ歯周病菌が含まれている。
⇒ 誤嚥によって歯周病菌を含む唾液が気道に入り込み、肺へ到達する。
⇒ 肺のなかで歯周病菌が増殖して肺に炎症を起こす(誤嚥性肺炎)。
誤嚥性肺炎を起こした人の肺からは高い確率で歯周病菌が見つかり、歯周病と深い関連性があることが分かっています。
誤嚥性肺炎で痰が出る
誤嚥性肺炎を起こすと、発熱・発汗のほか、咳や痰が出たり、胸痛、呼吸困難などの症状が出たりすることがあります。しかしながら、高齢者の場合はこのような症状が現れにくいケースもあるので注意が必要です。
■誤嚥性肺炎の検査方法・治療方法
誤嚥性肺炎が疑われる場合は、レントゲン検査や血液検査がおこなわれます。胸部レントゲン検査で肺炎像が見られたり、血液検査で炎症反応が見られたりすると診断が確定します。
誤嚥性肺炎の治療は抗生物質の投与によっておこなうのが一般的です。抗生物質で肺炎の改善は期待できますが、誤嚥そのものがなくなるわけではないので繰り返し発症する高齢者は少なくありません。根本から誤嚥性肺炎を予防するには、嚥下機能を強化するトレーニングをするほか、唾液に含まれる細菌を減らす口腔ケアも効果的です。
まとめ
歯周病は日本人の「国民病」とも言われる病気ですが、蔓延を許している要因の一つは歯周病に対する危機意識の低さです。歯周病は「歯茎から血が出る病気」「すぐに治る病気」といったイメージを持つ人が少なくありませんが、本記事でもお伝えしたとおり全身疾患との関わりが深く、命が脅かされるような重篤な疾病を招くケースもあります。
歯周病治療を後回しにしていたために、痰が出るようになったら歯性上顎洞炎や誤嚥性肺炎を起こしている可能性も考えられます。重篤な疾病を招かないようにするには、歯周病を早期発見・早期治療することが何より大事です。歯茎の腫れや出血などの症状が見られたら、ぜひお早めに歯科医院を受診してください。
歯周病の治療方法
よくある質問
歯周病を治さないでいると、どうなるのでしょうか?
歯周病を放置していると歯を支えている顎の骨がどんどん溶かされていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。また、歯周病菌が血流に乗って全身を巡ることで、様々な全身疾患の引き金になることが分かっています。たとえば、糖尿病が悪化したり、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたりすることがあるので、注意が必要です。その他、誤嚥性肺炎や骨粗鬆症、腎炎や関節炎の原因になるほか、妊婦さんの場合は、早産や低体重児出産のリスクが高くなることも明らかになっています。
歯周病の治療方法
歯周病治療は、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
歯周病治療の基本は、原因であるプラークや歯石を取り除く治療が中心になります。軽度の歯周病であれば、スケーリングやデブライドメントなどの非外科処置でプラーク・歯石を取り除いていきます。歯周病が中度や重度にまで進行している場合は、歯周ポケットの奥深くにまでプラーク・歯石がこびり付いているため、歯茎を切開してプラーク・歯石を除去する外科処置をおこなう場合もあります。歯周病治療の詳細は以下のページをご覧ください。
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監修者情報
公開日:2020年3月31日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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