2024.01.23
歯を残す?抜いてインプラントにする?
歯周病で歯がグラついているけどインプラントにすべき?(50代 Eさん)
Eさん:
歯周病で歯がグラついているのは自覚しているのですが、食事は普通にできます。でも、担当医に「いずれ抜く歯は、早くインプラントにしたほうがいい」と言われ、迷っています。
清水院長:
「いずれ抜く歯」という言い方は、歯周病が治らないことを前提としているように聞こえますが、歯周病は治る病気です。治療法も確立されている病気なので、適切な治療を受けることで十分に歯を残せる可能性はあります。ですから、いきなりインプラントという判断をするのではなく、まずは歯周病を治すことに専念すべきだと思います。
Eさん:
歯周病が治ると、歯のグラつきもなくなるのでしょうか?
清水院長:
歯周病が治ると歯茎が引き締まり、サポーターとして歯を支えるのでグラつきは小さくなります。もし、歯のグラつきが残ったとしても、食べることに支障がなく、痛みもないのであれば抜歯する必要はありません。
Eさん:
インプラントにするより自分の歯を残したほうが良いということですね?
清水院長:
はい、もちろんです。歯を失ってしまった場合の選択肢として、インプラントが最善であることは確かです。しかし、まだ歯を残せる可能性があるのに、インプラントを検討するのは考えものです。というのも、インプラントと天然歯を比べたとき、歯の強度はインプラントのほうが優れていますが、細菌への抵抗力は天然歯のほうが優れているからです。
Eさん:
インプラントが細菌に弱いということは、長持ちしないということですか?
清水院長:
適切なメンテナンスができないと「インプラント周囲炎」という病気にかかって、最悪の場合、インプラントを失ってしまう可能性があります。インプラント周囲炎というのはインプラントに起きる歯周病のことで、治療法が確立されていない厄介な病気です。原因は歯周病と同じくプラーク(歯垢)ですが、歯周病が重症化したために抜歯してインプラントを入れた方は、そもそもブラッシングが苦手な方が大半です。そのためプラークが溜まりやすく、インプラント周囲炎になってしまう方が少なくありません。
Eさん:
ブラッシングがきちんとできていないのに、インプラントを入れてはいけないということですね。
清水院長:
そのとおりです。歯科医院側としても、ブラッシング指導をしないままインプラント治療をするというのはあり得ません。インプラント治療とブラッシング指導はセットでなければなりませんし、歯周病治療においてもブラッシング指導は非常に重要です。患者さまご自身で正しいブラッシングができるようにならないと、歯周病は治りません。
自分の歯を残すために定期検診以外にできることは?(60代 Fさん)
Fさん:
食べることが唯一の趣味なので、できるだけ自分の歯を残したいのですが、定期検診以外に何かできることはありますか?
清水院長:
日本人が歯を失う原因の4割強が歯周病で、3割強がむし歯です。そして、ともに原因はプラーク(歯垢)に潜む細菌です。歯を失わないようにするためにはプラークを溜めないようにすること、つまり、日々のブラッシングが非常に重要になってきます。
Fさん:
以前、歯周病にかかってしまったことがあります。毎日きちんとブラッシングをしていたのですが・・・。
清水院長:
毎日、ブラッシングをしてプラークを除去していれば、歯周病にはならないはずです。ところが、Fさんのように歯周病にかかってしまう人が多くいます。それは、正しいブラッシングができていないからです。たとえば、歯科医院でクリーニングを受けて口腔内をきれいにしても、数分後には歯の表面に細菌が付着し、数時間後にはプラークが形成されています。これを毎日できるだけ取り去るには、「正しいブラッシング」しかありません。
Fさん:
正しいブラッシングを身につけるには、どうしたらいいでしょうか?
清水院長:
正しいブラッシングを習得するためには、歯科医院でブラッシング指導を受けることが重要です。歯科医院のブラッシング指導では、染出し剤を使ってプラークの取り残しをチェックします。染出し剤とは、プラークに反応してプラークを赤く染色する薬剤のことです。プラークは歯の色に似た乳白色をしているので目で見ても分かりにくい場合がありますが、染出し剤を使えば赤くなるので、どの場所にどのくらいプラークが溜まっているかをはっきり認識できます。赤くなっている箇所がしっかりブラッシングできていない箇所、つまり改善すべきポイントということになります。客観的に自分のブラッシングの弱点やクセを把握したうえで改善できるのが、ブラッシング指導を受けるメリットです。
Fさん:
ブラッシング指導は、どの歯科医院でも受けられますか?
清水院長:
どの歯科医院でも受けられると思いますが、できるだけブラッシングを重視している歯科医院を選ぶのがいいでしょう。歯周病やむし歯を予防するには、患者さま自身で正しく磨けるようにならなければいけません。そのためにはブラッシング指導が必須であり、「ブラッシング指導にしっかり時間をとっているか?」という点は、歯科医院を選ぶときの一つの指標になります。
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監修者情報
公開日:2020年10月27日
更新日:2024年1月23日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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