2024.01.22
歯周病になったらもう手遅れ?症状が進行する前に相談を
歯周病を「歯茎から血が出る病気」だと思っている方は多くいますが、これはあくまでも歯周病の初期症状です。重度にまで進行すると歯を支える顎の骨が溶かされていき、末期症状としては歯がグラグラになって抜け落ちてしまいます。また、歯周病は「高齢者がかかる病気」だと思っている方も少なくありませんが、この認識も誤りです。20代や30代でも歯周病にかかる人はいますし、特に40代に差しかかると患者数は一気に増加します。
歯周病の怖いところは初期の自覚症状に乏しく、静かに進行していくところです。「歯周病に気付いたときには手遅れだった・・・」というケースも多々あるため、気になる症状があればすぐに歯科医院を受診することが大切です。
歯周病になったら手遅れなのか?
歯周病は歯周病菌による細菌感染症ですが、風邪のように自然に治ることはありません。歯茎からの出血や歯茎の腫れは歯周病の代表的な症状ですが、「放っておいたら出血がなくなった」「気付いたら歯茎の腫れが引いていた」という経験がある方もいらっしゃるでしょう。しかし、これは歯周病が治ったわけではなく、一時的に症状が収まっているに過ぎません。歯周病に感染しているのであれば再び症状は現れますし、時間が経つほど症状は進行していきます。歯周病になってしまったら、歯科医院で専門的な治療を受けるしか治す方法はありません。
なお、厳密に言えば、歯周病の前段階である「歯肉炎」の状態であれば、自然治癒する可能性があります。毎日丁寧にブラッシングをして口腔内のプラーク(細菌)を少ない状態にできれば、歯肉炎は治ります。とはいえ、一般の方が自分の症状が「歯肉炎なのか歯周病なのか」を見分けるのは難しいので、やはり気になる症状があったら歯科医院を受診するのが基本です。
■歯科医院で「治らない」と言われた?
歯周病は治る病気ですが、なかには「治らない」と言うドクターもいます。実際に「治らない」と言われて悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。では、なぜそのドクターは「歯周病は治らない」と言うのでしょうか? 大きく2つの可能性が考えられます。
一つは、「元の状態に戻らない」という意味で「治らない」と言っているケースです。歯周病が重症化すると歯茎が痩せたり顎の骨が溶かされたりしますが、基本的に失われた歯茎や顎の骨が元通りになることはありません。「歯周組織が元通りにならない」という意味で「治らない」という表現を使っている可能性はあるでしょう。
もう一つあり得るのが、そのドクターが本当に「歯周病は治らない」と考えている可能性です。昔は、歯周病は老化に伴う病気だと考えられており、一度感染すると治らないと言われていた時代もありました。しかし、40年以上も前に適切な処置によって歯周病を予防・治療ができることが明らかになっています。にもかかわらず、未だに「歯周病は治らない」と考えているドクターもいます。ドクターが「治らない」と考えている以上、その医院で治療を受けても歯周病が治ることはないでしょう。
繰り返しになりますが、歯周病は適切な治療を受ければ必ず治ります。もし「治らない」と言われたら、歯科医院を変更することをおすすめします。
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歯周病を放置すると手遅れに・・・
歯周病を放置していると歯茎の腫れや出血がひどくなり、歯茎から膿みが出るようになります。それでも治療を受けずにいると歯を支えている顎の骨が溶かされ、歯がグラグラするようになってきて、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。歯が抜けてしまっても、入れ歯やインプラントなどの治療で噛む機能を回復させることはできます。しかし、どんなに優れた人工歯でも私たちが生まれ持った天然歯にはかないません。
日本人が歯を失う原因の第一位は歯周病です。このことから分かるように、手遅れになるまで歯周病を放置してしまう人が少なくありません。しかし、歯周病は早い段階で適切な治療を受けていれば手遅れにならないことがほとんどです。早期発見・早期治療ができれば、歯周病はそれほど怖い病気ではありません。
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歯を失うデメリット
1本の歯を失っただけでも、口腔内、および全身に様々な影響が及んでいきます。歯を失うデメリットについてご説明します。
■歯並びが乱れる
歯を失うと、もともと歯があったスペースを補うために、両隣の歯が近付くように移動してきます。そうなると他の歯も連鎖的に動いたり傾いたりして、歯並びが乱れてしまいます。
■歯茎や顎の骨が痩せる
私たちは、食べ物を噛むことで顎の骨に刺激が伝わり、この刺激によって顎の骨が活性化されています。しかし、歯を失うと顎の骨に刺激が加わらなくなるので、徐々に顎の骨が痩せていきます。顎の骨が痩せると骨に乗っている歯茎も痩せていき、人によっては顔貌が変わってしまうこともあります。
■口元の見た目が悪くなる
特に前歯など、目立つ部分の歯を失うと口元の見た目が悪くなります。特に女性は、歯を失うことで見た目に自信を持てなくなり、笑顔が少なくなったり人と話すのが嫌になったりします。仕事にもプライベートにも悪影響を及ぼし、精神的に大きなストレスを抱えてしまう人も少なくありません。
■栄養バランスが偏る
歯を失うと、硬い物を食べにくくなります。肉や野菜をうまく噛み切れないと、食べやすいものばかりを好むようになり栄養バランスが偏ってしまいます。また、よく噛めないことで満腹感を覚えにくくなるため、肥満のリスクも高くなります。
■認知症のリスクが高まる
私たちは、食べ物を噛むことで脳に刺激を与えています。歯を失うとしっかり噛めなくなるため脳への刺激が減り、認知症になりやすいという研究結果も報告されています。
■発音しにくくなる
歯は食べるためだけでなく、話すためにも欠かせない器官です。歯を失うと空気が漏れるなどして発音しづらくなり、相手が聞き取りにくいなど、コミュニケーションに支障が出る可能性もあります。
まとめ
日頃から口腔内に異変がないかをチェックして、異変を感じたらすぐに歯科医院を受診するようにしていれば、歯周病に感染していたとしても手遅れになることはありません。「大したことはない」「すぐに治るだろう」といった油断や慢心はNGです。口腔内に異変を感じたら歯科医院を受診するのはもちろん、異変がなくても定期的に歯科医院を受診して口腔内の健康チェックをしてもらうことが、大切な歯を守ることにつながります。
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監修者情報
公開日:2021年11月15日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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