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2024.01.22
歯周病と認知症の関係とは?歯周病の原因を知って正しく予防しよう
近年、歯周病は糖尿病や脳疾患、心臓疾患などの全身疾患との関連性が明らかになっており、ニュースなどで報じられることも増えています。そのなかでも特に最近、注目されているのが歯周病と認知症(アルツハイマー型認知症)との関係です。今回は、歯周病とアルツハイマー型認知症、また歯周病と糖尿病などの全身疾患との関係を中心に解説していきます。
歯周病と認知症の関係とは?
かねてから、「歯周病になると認知症になりやすくなる」というように、歯周病と認知症の関連性が指摘されています。ただ、これは厳密に言うと、歯周病が原因で認知症になるというロジックではなく、歯周病によって歯を失うことで噛む刺激が脳に伝わりにくくなる結果、認知症のリスクが高まるという考え方です。
私たちは、食べ物を咀嚼することで脳に刺激を与えています。逆に言うと、歯が抜けてしまうとしっかりと咀嚼できなくなるため、脳に伝わる刺激も少なくなります。歯の本数が少ない人は噛むことによる脳の活性化が起こりにくくなるため、認知機能が低下する、つまり認知症になりやすくなるという研究結果も報告されています。
歯周病がアルツハイマー型認知症の原因になる!?
歯周病で歯を失うことで認知症のリスクが高まるのは上述のとおりですが、この場合の直接的な原因は「歯を失うこと」であり、歯周病に限らず、むし歯や事故などで歯を失った場合も同様に認知症のリスクが高まると言えます。ですが、近年の研究では、歯周病が認知症のなかでも特に多い「アルツハイマー型認知症」の直接的な原因になっている可能性があることが明らかになってきました。
■アルツハイマー型認知症とは?
高齢化が進む日本では、認知症と診断される方が増加しています。認知症はいくつかのタイプに分類されますが、全体の約7割を占めるのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症の主な症状としては、記憶障害、言語障害、視空間認知障害、見当識障害(今どこにいるのか?今がいつなのか?が分からなくなる障害)などが挙げられます。
■歯周病はアルツハイマー型認知症の原因になる
アルツハイマー型認知症の大きな原因になっているのが、「アミロイドβ」という異常なタンパク質が脳に蓄積してしまうことです。アミロイドβによって脳神経細胞が破壊され、脳が萎縮することで徐々に認知機能が低下していくのがアルツハイマー型認知症です。
これまで、アミロイドβが脳に蓄積してしまう原因は分かっていませんでしたが、2019年におこなわれたマウスを使った実験で、歯周病菌であるジンジバリス菌(Pg菌)によってアミロイドβが産生されることが発見されました。九州大学大学院 歯学研究院の武 洲准教授の研究チームがおこなったマウスの実験では、人の中年に当たるマウスの全身にジンジバリス菌(Pg菌)を慢性投与した結果、マウスの脳内にある「アミロイドβ」が増加し、記憶障害が誘発されたのです。
このような研究などから、近年では、歯周病がアルツハイマー型認知症の直接的な原因となっている可能性が指摘されるようになりました。
歯周病は全身の健康に悪影響を及ぼす!
歯周病はアルツハイマー型認知症の原因だけでなく、様々な全身疾患の引き金になることが明らかになっています。歯周病が重症化した状態は、口腔内、特に歯周ポケット内部に大量の歯周病菌が生息している状態です。この歯周病菌が血液を介して各臓器に運ばれることで、全身疾患に悪影響を及ぼすわけです。歯周病との関連性が指摘されている代表的な全身疾患は以下のとおりです。
■糖尿病
糖尿病患者は歯周病にかかるリスクが高く、逆に歯周病患者は糖尿病が悪化しやすくなることが分かっています。また、歯周病を治療することで血糖値が改善し、糖尿病の改善にもつながるという報告もあります。
■脳血管疾患
歯周病菌が血液を介して全身を巡ることで動脈硬化を引き起こし、脳梗塞などの脳血管疾患を招く可能性が指摘されています。実際に、脳梗塞の患者は歯周病に感染している割合が高いことが明らかになっています。
■心臓疾患
歯周病菌が血液を介して心臓に運ばれることで、感染性心内膜炎をはじめとする心臓疾患を引き起こす可能性が指摘されています。
■誤嚥性肺炎
誤嚥(ごえん:誤って気管に食べ物が入ってしまうこと)によって、食べ物と一緒に歯周病菌が気管に入り込み、それが肺にまで達すると、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こすリスクが高くなります。
■早産・低体重児出産
歯周病に感染している妊婦さんは、そうでない妊婦さんに比べて早産や低体重児出産のリスクが約2~4倍になるというデータがあります。
歯周病と全身疾患との関係については、以下のページでも詳しく解説しています。
>> 全身疾患と歯周病の関係 | 歯周病治療なら東京国際クリニック/歯科
歯周病のセルフチェック方法
以下は、歯周病の代表的な症状です。一つでも当てはまる症状がある方は、歯周病に感染している疑いがあります。
□ ブラッシングの際に歯茎から出血がある
□ 歯茎が赤く腫れている
□ 歯茎から膿みが出る(もしくは、朝起きたとき口の中がネバネバする)
□ 歯茎がむずがゆい
□ 口臭がきつい
□ 以前より歯が長くなった気がする(もしくは、歯と歯の間が広がった気がする)
□ 歯を指で押すとグラグラする
歯周病のセルフチェック方法や症状などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
>> 歯周病のセルフチェック・検査で進行状態を把握しよう
歯周病の主な原因
歯周病の直接的な原因はプラーク(歯垢)に生息する歯周病菌です。ブラッシングがいい加減だと、口腔内にプラークが溜まっていき、プラーク内に増殖した歯周病菌によって歯茎に炎症を起こすのが歯周病の始まりです。また、歯周病のリスクを高める要因(リスクファクター)として、「環境因子」と「宿主因子」というものがあります。
■歯周病の環境因子
環境因子とは生活習慣のことで、歯周病のリスクを高める環境因子としては喫煙やストレスなどが挙げられます。喫煙者は白血球の機能が低下して、歯周病菌に対する抵抗力が落ちるため、歯周病のリスクが高くなります。また、ストレスを抱えていると全身の免疫力が低下し、歯周病を発症するリスクも高くなります。
■歯周病の宿主因子
宿主因子とは体の状態のことで、歯周病のリスクを高める宿主因子としては遺伝や糖尿病などが挙げられます。重度の歯周病患者は、両親もしくはどちらか片方に重度の歯周病が確認されることが多いという調査結果があります。また、糖尿病になると全身の免疫力が低下し、健常者に比べると歯周病を発症するリスクが2~4倍に高くなります。
歯周病の予防方法
歯周病を予防するためには、以下の3つのポイントを徹底することが大切です。
■正しいブラッシング
毎日歯を磨いているのに歯周病になってしまう人は多くいます。その理由は、正しいブラッシングができていないから。正しいブラッシングができていないと特定の箇所にプラークが残ってしまい、そこから歯周病が発症してしまうのです。まずは、正しいブラッシング方法を身に付けるため、歯科医院でブラッシング指導を受けるのがいいでしょう。歯周病予防のためには、いかにプラークの取り残しを少なできるかが重要です。
とはいえ、歯ブラシによるブラッシングだけでは、奥歯の裏側や歯と歯の間に溜まったプラークを落とすのは困難です。このような箇所のプラークを落とすには、歯間ブラシやデンタルフロス、タフトブラシなどの補助グッズを使うのがおすすめです。
■歯科医院での定期検診
ご自宅で正しいブラッシングができていても、歯周ポケットの内部など、ブラッシングでアプローチできない箇所もあります。また、歯石もブラッシングでは除去することができません。ブラッシングで取り除くことができないプラークや歯石は、歯科医院での定期検診で除去してもらいましょう。定期検診を受診するペースは、3ヶ月に一度が目安になります。
■生活習慣の改善
上述のとおり、良くない生活習慣は歯周病のリスクを高める環境因子になります。逆に言えば、生活習慣を改善して免疫力を高めることで歯周病予防につながります。「健康的な食生活で栄養バランスを整える」「疲れを溜めないように十分な睡眠をとる」「ストレスを溜めないようにリフレッシュできる時間を設ける」といったことを心がけ、歯周病になりにくい体質を作っていきましょう。
まとめ
「人生100年時代」と言われるようになり、「健康寿命」の大切さが叫ばれています。健康寿命を延ばすためには、歯周病予防が不可欠です。本編でお伝えしたとおり、アルツハイマー型認知症だけでなく、糖尿病をはじめとする様々な全身疾患を予防するためにも歯周病を予防することは非常に重要です。ぜひお口の健康管理から、全身の健康づくりを始めていきましょう。
※参考:歯周病菌感染は全身の脳老人斑成分を脳内輸入させる~歯周病によるアルツハイマー型認知症関与を解明する新しい発見~|九州大学 プレスリリース(2020年7月3日)
※参考:世界初ヒト歯周病の歯茎で脳内老人斑成分が産生されていることが判明〜歯周病によるアルツハイマー型認知症への関与解明の新展開〜|九州大学 プレスリリース(2019年11月14日)
監修者情報
公開日:2021年11月24日
更新日:2024年1月22日
清水智幸(しみずともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学卒業後、近代歯周病学の生みの親であるスウェーデン王立イエテボリ大学ヤン・リンデ名誉教授と日本における歯周病学の第一人者 奥羽大歯学部歯周病科 岡本浩教授に師事し、ヨーロッパで確立された世界基準の歯周病治療の実践と予防歯科の普及に努める。歯周病治療・歯周外科の症例数は10,000症例以上。歯周病治療以外にも、インプラントに生じるトラブル(インプラント周囲炎治療)に取り組み、世界シェアNo.1のインプラントメーカー ストローマン社が開催するセミナーの講師を務めるなど、歯科医師の育成にも力を入れている。
・日本歯周病学会 認定医
・日本臨床歯周病学会 認定医
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